生年は不明だが初冬の生まれと推定される。血液型B型。男爵朝倉景清の妻、津川伯爵家の出。大正8年(推定)景清と結婚。大正9年フランスで長女柳子を出産、その後帰国し次女琴子にも恵まれる。女には「華族の女とそうでない女」がいると考え、華族には何よりも優雅さや洗練さが必要だと思う。昭和15年朝倉家に出入りするようになった天堂一也のせいで、次々と良くない事が起こると、一也を疫病神と忌み嫌う。柳子が一也に輸血したと知ると、激しく柳子を叱るが、そんな貴久子を景清はたしなめる。娘柳子と伊能鳥彦の縁談をまとめようと必死な貴久子は、柳子とまたもや対立する。やがて、一也の復讐心を知って柳子は鳥彦と婚約する、喜ぶ貴久子。
昭和16年戦争が始まって、幸せだった朝倉家にも影が忍び寄ってきた。昭和17年、景清がスパイ容疑で逮捕されてしまう。逮捕後、貴久子は体調を崩し倒れてしまうが、ひたすら夫を信じていた。一也のせいで、景清が逮捕されたと言う甥の津川圭吾の言葉を貴久子も信じ、一也をますます嫌う。景清の様態が悪くなり一人だけが面会を許された時も、景清が一番会いたいのは柳子だと思い、柳子を行かせる。だが、35年前の一也の母旧姓早川富士乃の手紙を一也を渡す為に、一也の所へ言った柳子を疑い責める。2月12日景清の様態は急変して亡くなる。貴久子は未亡人となった。景清への誤解が解けた一也が香典を送ってきても、貴久子は一也を恨みかたくなに拒否する。一也の為に、富士乃の墓に景清のお骨を入れようと、お骨を持ち出そうとする柳子の頬を叩き、「貴方、そんなにあの男が好きなんですか。お父様のお骨を持っていくということは、この家を朝倉家を出るということなんですよ」と激しく言い放つ。かねてから柳子の行動に疑問を持っていた貴久子は、遂に景清に結婚前に富士乃という恋人がいたと知って動揺するが、景清にとって富士乃との恋は戯れだったのだと断言する。反論する柳子に、「いいえ、そこが大事なんです。普通の女とそうでない女、その違いを忘れては駄目」と言う。貴久子にとって、景清と富士乃が真剣に愛し合ったということは、華族の女としてプライドが許さないのだろう。しかし、柳子は人を愛することに身分の違いはないと言う。そんな柳子を見て、全て一也のせいだと嘆き絶対に一也との仲は許さないと言い、富士乃の手紙を破いてしまう。景清の死後、借金まみれの朝倉家を救ったのは、一也のお金だった。だが、その事実を貴久子は知らない。知れば激怒するのがわかっている柳子と圭吾が隠したからだ。貴久子は圭吾が都合してきたと思っていた。
貴久子は、昭和18年朝倉男爵家を継いだ圭吾と柳子が結婚してくれることを願う。だが、柳子は一也と既に二人だけの結婚式を挙げて一也の妻となる決心をしていた。戦争に生き残れたら柳子を幸せにすると言う一也に、貴久子は富士乃の息子なら富士乃がそうしたように身を引けと言い、いきなり発作を起こし倒れる。去ろうとする一也を追おうとする柳子に、圭吾が貴久子より一也の方が大事なのかと言い、柳子は思い止まる。その後、柳子と気まずい日々が続くが、貴久子は一也の戦死公報を受けとって自殺しようとした柳子を励まし、柳子は新たに生きて行く決心をする。
昭和20年初冬、敗戦後、華族制度廃止を知って自殺を図るが、柳子に戦前の誇りある生活を取り戻してみせる、華族の誇りを守ってみせるので生きて欲しいと言われ、貴久子は、「ありがとう、これからは貴方に手を引かれて生きていきます」と、その後朝倉家のことは柳子と圭吾に任せる。
そうして3年が経ち、死んだと思っていた一也が帰って来た。柳子と圭吾は一也と激しく対立する。柳子が「夜叉夫人」と呼ばれていることは知らない貴久子は、柳子達の仕事の為進駐軍のケンプトン大佐を招いたパーティのホステス役も勤めていた。やがて、柳子と琴子二人の娘が対立するのに、心を痛める。昭和24年、琴子の家出で、柳子達のしていることに疑問を持つが、破産し絵を売りに来た柳井伯爵夫人の口から、柳子が「夜叉夫人」と呼ばれていることを知る。すっかり変ってしまった柳子を貴久子は問い詰めるが、柳子は朝倉家の為に戦ってるのだと言う。そんな柳子に貴久子は、「では、辞めて下さい。そんな仕事は今すぐお辞めなさい。私は娘の悪口を聞かされてまで、この暮らしをしていたいとは思っていません」と言うが、柳子には通じなかった。そして、家を出ていた琴子が、朝倉の姓を捨てたいと言って戻って来た時、驚愕する。琴子は誇りとは心の問題だ、柳子達にもう付いて行けない、貴久子にも一緒に出て行こうと誘うが、貴久子は生涯を朝倉家で終わると決めている、柳子と圭吾を信じていると断る。しかし、貴久子は柳子を再度問い詰める。柳子は昔の朝倉家を取り戻したいだけだと。
お互い気まずい日々が続いたが、柳子が妊娠した、大喜びの貴久子。しかし、そこへ新橋の土地買収のことで、自殺者まで出たと一也が貴久子に会いに来た。真実が知りたい貴久子は一也と会う。一也から真相を聞いた貴久子は、「貴方がたはこの朝倉家を、名を汚したんですよ。人一人の命を奪ったんです」と柳子と圭吾を責める。そうして、圭吾が逮捕され、貴久子は柳子達が間違っていたとはっきり言うが、逆に柳子に今までがんばって来たのは朝倉家の為、貴久子の為だと思いの丈をぶつける。そんな柳子に貴久子は素直に謝る、そして考え直して欲しいと言う。
再度一也が貴久子を訪ねて来た。自分のせいで、圭吾が逮捕され柳子が保釈金集めに奔走してると言う一也。一也は貴久子にお金を渡し、それを圭吾の保釈金に使って欲しいと言う。貴久子は、なぜ一也が景清を慕うのか訳を聞くと、亡き景清の名誉を守る為に、人間として大切なものを失ってしまった圭吾と柳子を敢えて密告したと言う。「天堂さん、貴方という人を今日初めて知ったような気がします。長い間、貴方を誤解し、虐げ続けて来た私の愚かしさを恥ずかしく思います。誇りとは人を思う優しさの中にこそあるもの、今貴方を見ていて、初めてそれを知りました。殿様のご意志は貴方の中に受け継がれていたのですね。ありがとう」と貴久子は、一也に感謝してお金を受け取る。長い長い一也との確執にもピリオドがうたれ、ようやく和解する貴久子であった。あとは柳子と圭吾が目覚めてくれるのを待つばかりだった。
だが、タカが死に圭吾と離婚を決意した柳子に、責任を持てるのなら自分の信じた道を行きなさいと言う。しかし、柳子は流産し圭吾は詐欺まがいのことをして失踪、朝倉家の家屋敷も売り払って返済に当てることになった。貴久子は巡礼の旅に出ることになった。一緒に行きたいと言う柳子に、「柳子さん、貴方がもしまだご自分に罪があるとお思いなら、私がそれを背負って歩きましょう。ですから、貴方は一日も早くこれからの生きる道を見つけて下さい」と貴久子は言い、同行を断る。最後に、貴久子は景清の意志を継いで欲しいと、亡き景清の愛刀を一也に授ける。きぬと巡礼の旅に出た貴久子は、旅先から葉書を送ってくる。それを読んだ一也は、巡礼の旅から帰ったら貴久子も「鐘のなる丘」に呼び寄せようと言う。